どうして私の言うことが聞けないの!?
こうなってしまったのは全部あの人のせいだ
時折こうした揉めごとが発生することがありますよね。
自他境界があいまいになって、他者の問題に首を突っ込んだり、逆に、直接関わりがないのに頼まれごとをされて断れなかったり・・・
こうした習慣が続くと、共依存に繋がるリスクがあるので、避けたいものです。
そこで、この記事では以下の3つを解説します。
・アドラー心理学の「課題の分離」とは
・課題の分離の判断基準とは
・課題の分離は親子関係を修復するカギを握っている
あなたがこの記事を読むと、必要以上に他者の評価に振り回されなくてもいいことに気づけます。
さらに実践すると、不和が生じていた親子関係やその他の人間関係を修復する可能性も見えてきます。
アドラー心理学の「課題の分離」とは
課題の分離は、アドラー心理学の4つの思想のうちの1つで、主に人間関係の悩みを解消してくれる考え方です。
人間関係の諍いとは、主に、他者の課題に土足で踏み込む、もしくは、自分の課題に踏み込まれることによってトラブルが生じるといわれています。
そして、そうした人間関係トラブルを回避するために、「課題の分離」が役に立ちます。
課題の分離とは、「自分の課題」と「他者の課題」を分けて考えることをいいます。
たとえば、親子関係。
子どもが全く勉強してないことに焦りと苛立ちを覚えた親が、無理矢理子どもに勉強を強制させるのは、アドラー曰く、いけないことだといいます。
ですが、それでは子どもが自己中心的になってしまうのでは、と心配になる人も多いでしょう。
しかし、アドラーは続けます。
親子のベストな関係性とは、あらかじめ子どもに「これはあなたの課題」と伝え、責任を持たせ、子どもが窮地に陥ったとき、素直に親に相談できる信頼関係を築いていることだといいます。
(哲人)アドラー心理学は、放任主義を推奨するものではありません、放任とは、子どもがなにをしているのか知らない、知ろうとしない、という態度です。そうではなく、子どもがなにをしているのか知った上で、見守ること。勉強についていえば、それが本人の課題であることを伝え、もしも本人が勉強したいと思ったときにはいつでも援助をする用意があることを伝えておく。けれども、子どもの課題に土足で踏み込むことはしない。頼まれもしないのに、あれこれ口出ししてはいけないのです。
ーー(青年)じゃあ、たとえば引きこもりのような場合ではどうです?つまり、わたしの友人のような場合は。それでも課題の分離だ、土足で介入するな、親には関係ない、とおっしゃるのですか?
(哲人)引きこもっている状態から抜け出すのか抜け出さないのか、あるいはどうやって抜け出すのか。これは原則として本人が解決するべき課題です。親が介入することではありません。とはいえ、赤の他人ではないのですから、なんらかの援助は必要でしょう。このとき、もっとも大切なのは、子どもが窮地に陥ったとき、素直に親に相談しようと思えるか、普段からそれだけの信頼関係を築けているか、になります。
岸見一郎・古賀史健 著『嫌われる勇気』p.142・p.144
これは親子関係に限らず、仕事上でも同じです。
たとえば、あなたが部下にとある書類をPDF形式で提出してほしいと伝えますが、部下がWord形式で提出した際、相手を否定するような言葉や部下の仕事を取り上げて自分でやるのでは、課題の分離は成立しません。
責めるのではなく、部下に自らのミスを「気づかせること」が大切です。
ーーまず、絶対にやってはいけないのが「相手を否定すること」です。
「PDFで提出しろと言ったじゃないか!」「取引先からの依頼のメールまで送ってるんだから、ちゃんと確認しろ」などの言葉で相手を否定することは、相手の安心感を損ない、自己重要感も傷つけます。相手は今後のあなたのために動こうという気持ちにならないでしょう。
「Word形式ではなく、依頼したPDF形式で書類を提出してほしい」ーーこの指示を、相手を否定せずに、自分で気づかせるには・・・。
「この資料ってWord形式でよかったんだっけ?」たとえば相手にそう質問すればいいのです。
ミスを指摘するのではなく、書類の提出形式を自ら確認し直すことを促す。そうすることで、相手は自らのミスに自分で気づき、速やかに修正します。ーーただし、ここであなたが気をつけなくてはならないのは、相手がミスに気づいた時の反応です。ーー「ほらな!おかしいと思ったんだよ」「おいおい頼むよ!」「危なかった!もっと注意してくれよ」などという反応は、相手の自己重要感を傷つけてしまいます。「部下は自ら確認して、自分で間違っていたということにすでに気づいている」ーーここを重視しなければなりません。ーー(中略)ーー
部下「ああっ!すみません。WordではなくPDFでした」あなた「そうか!ありがとう!助かった!」ーーこれが、相手の安心感と自己重要感を満たす、あなたの反応の一例です。
星渉 著『「伝え方しだい」で人生は思い通り 神トーーク』p.170
こうすることによって、課題の分離は成立し、部下もあなたに対して安心感を持ち、活発にコミュニケーションを取ってくれるようになります。その結果、大きなミスが生じにくくなります。
課題の分離の判断基準
では、どのように「自分の課題」と「他者の課題」を分けたらいいのかというと、以下の基準で判断すると良いです。
「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」
この問いを常に意識し、実践することで、あらゆる人間関係トラブルを減らすことができるようになります。
ちなみに仕事上などで、よかれと思って相手にした行為は「見返り」に縛られている行為だと、アドラーはいいます。
見返りとは、自分がこれだけあなたに与えたのだから、その分を返してくれ、という発想です。
恋愛で言い換えるなら、別れ際に「じゃあ、今まであげてきたデート代とプレゼント返して」です。
もし、見返り目当てで人と接しているのであれば、意識的にそうした行為をしないようにしましょう。
逆に、されている側であれば、丁重にお断りしましょう。
たとえば「ありがとうございます。でも、これ以上〇〇さんのお手間をかけさせるわけにはいかないので、自分でやります。」
それでも難しいようだったら、「親切にしていただきありがとうございます。ですが、お返しできるものがないので、このあたりで遠慮させていただきたいです。」
課題の分離は親子関係を修復するカギを握っている
アダルトチルドレンによっては、親にひどい扱いをされてきたから、「絶対許さない!」と思っている人もいるでしょう。
あなたが許したくないというのなら、許さなくてもいいと思います。
ですが、ここではあえて、親子関係の修復の可能性についても記しておこうと思います。
虐待であれ過干渉であれ、親との関係性が悪いものであっても、課題の分離が自分の中でしっかりとしていれば、親と今後どうしていきたいのかを冷静に判断して行動することができます。
課題の分離は、他者を操作するものではありません。
なので、「自分の課題」で自分を変えることはできても、相手を変えることはできません。
そのため、両者が目に見えてわかる良好な関係まで修復するのは難しいですが、片方(自分側)のネガティブ感情が緩和されることによって、以下の引用文のように親子間のしがらみや生きづらさから解放されやすくなります。
(哲人)原因論で「殴られたから、父との関係が悪い」と感じているかぎり、いまのわたしには手も足も出せない話になります。しかし、「父との関係をよくしたくないから、殴られた記憶を持ち出している」と考えれば、関係修復のカードはわたしが握っていることになります。わたしが「目的」を変えてしまえば、それで済む話だからです。ー(中略)ーたしかに、父とわたしの関係は複雑なものでした。実際、父は頑固な人でしたし、あの人の心がそう易々と変化するものとは思えませんでした。それどころか、わたしに手を上げたことさえ忘れていた可能性も高かった。けれども、わたしが関係修復の「決心」をするにあたって、父がどんなライフスタイルを持っているか、わたしのことをどう思っているか、わたしのアプローチに対してどんな態度をとってくるかなど、ひとつも関係なかったのです。たとえ向こうに関係の修復の意思がなくても一向にかまわない。問題はわたしが決心するかどうかであって、対人関係のカードは常に「わたし」が握っていたのです。
ーーわたしは「父を変えるため」に変わったのではありません。それは他者を操作しようとする誤った考えです。わたしが変わったところで、変わるのは「わたし」だけです。その結果として相手がどうなるかわからないし、自分の関与できるところではない。これも課題の分離ですね。
岸見一郎・古賀史健 著『嫌われる勇気』p.167
私自身もそうです。親が私のことをどう思っているかはあまり気にしてません。興味があるのは私がどう生きたいか、です。
あなたも他者の評価など気にせずに、自分の人生を歩んでいってください。
まとめ
今回は、アドラー心理学4つの思想のうちの1つ「課題の分離」について解説しました。
課題の分離は「自分の課題」と「他者の課題」を分離することで、人間関係トラブルを大幅に減らすことでしたね。
そして判断基準は、最終的に誰が引き受けるのか、でした。
仕事上で、あらゆる業務を様々な人から引き受けがちな人は要注意です。
「本当にそれは自分の課題なのか?」と疑いながら引き受けるようにしましょう。
さらに、課題の分離を応用することで、親との関係性の修復の可能性もあることをお伝えしました。
どうするかはあなた次第です。
自分の一生を決めるのは私でも、あなたの親でもありません。
あなた自身が判断して行動してください。